「短時間睡眠でも仕事はこなせる」――そう感じているなら、注意が必要かもしれません。実際には、睡眠不足が集中力、判断力、感情コントロールといった仕事に不可欠な能力を低下させる可能性があります。
本記事では、短時間睡眠が仕事に与える具体的な影響と、多忙な中でも睡眠の質を高めるための実践的な方法を解説します。体も心も持続可能な働き方を実現するために、睡眠を「仕事の一部」として見直してみませんか?
この記事のまとめ
・短時間睡眠は集中力・判断力・感情コントロールなど仕事に直結する能力を低下させ、本人が気づかない「睡眠負債」がキャリアの質を蝕む可能性があります
・遺伝的なショートスリーパーは人口の1%未満であり、大半の人は睡眠不足の影響を受けています。徹夜明けの仕事効率は通常時の6~7割程度まで落ち込む恐れがあります
・寝具の見直し、深部体温のコントロール、デジタルデトックス、パワーナップなどで睡眠の質を高め、持続可能な働き方を実現できます
短時間睡眠が仕事のパフォーマンスに与える5つの悪影響
睡眠不足は、脳の機能を多方面から低下させます。以下では、仕事の現場で具体的に表れる5つの影響を解説します。
集中力と判断力の低下
睡眠不足の状態では、前頭前野の活動が抑制されます。前頭前野は注意の持続や優先順位の判断を担う領域です。睡眠時間が不足すると、単純作業でのミス率が増加する傾向が報告されています。
会議中に話を聞き逃す、メールの誤送信に気づかない、些細な判断ミスが重なる――こうした現象は、単なる「うっかり」ではなく、脳の情報処理能力そのものが落ちている可能性があります。睡眠時間が極端に短い状態が続くと、判断の精度は鈍りやすくなります。
論理的思考の鈍化
論理的な思考や複雑な問題解決には、脳の複数の領域が連携して働く必要があります。睡眠が不足すると、この連携が阻害され、情報の整理や推論の速度が低下することがあります。
企画書の構成が定まらない、データの因果関係が見えにくい、議論の筋道を追えないといった状況は、思考の「切れ」が失われている状態といえます。特に戦略的な判断や創造的な発想を求められる場面では、睡眠不足の影響が顕著に表れやすいでしょう。論理の飛躍や結論の甘さは、本人が気づかないまま進行することもあります。
感情コントロールの乱れ
睡眠不足は、扁桃体の過活動を引き起こすことが知られています。扁桃体は恐怖や不安といった感情を司る部位であり、前頭前野による抑制が弱まると、感情の振れ幅が大きくなる傾向があります。
些細な指摘にイライラする、部下への言葉がきつくなる、取引先とのやり取りで感情が表に出る。こうした反応は、本来の性格ではなく、脳の制御機能が低下している結果かもしれません。感情の起伏が激しくなると、周囲との関係性にも影響が及びます。人間関係の摩擦が増えれば、仕事の進行そのものが滞ることもあるでしょう。
ワーキングメモリの減少
ワーキングメモリとは、情報を一時的に保持しながら作業を進める能力です。睡眠不足はこの容量を縮小させることが研究で示されています。
電話の内容を覚えておけない、複数のタスクを並行できない、会議で話された内容がすぐに抜け落ちるなどです。こうした症状は、単なる記憶力の問題ではなく、脳の作業領域そのものが狭まっている状態です。特に複数のプロジェクトを同時に抱えている場合、ワーキングメモリの低下は大きなミスにつながる恐れがあります。
モチベーションの減退
睡眠不足は、報酬系の神経伝達物質であるドーパミンの分泌にも影響を与えることが指摘されています。ドーパミンが不足すると、達成感や意欲が湧きにくくなる傾向があります。
目標に向かう推進力が弱まる、成果を出しても喜びが薄い、新しい挑戦への意欲が持てない。こうした感覚は、精神的な問題ではなく、脳の報酬系が正常に機能していないサインかもしれません。慢性的な睡眠不足は、キャリアへの意欲そのものを削ぎ落とす可能性があります。仕事への情熱が失われれば、成長の機会も遠のくでしょう。
【これが現実】「短時間睡眠でも仕事はできる」という過信の危うさ
短時間睡眠でも問題なく働けると感じている場合、その実態は「慣れた」のではなく「鈍感になった」だけの可能性があります。以下では、睡眠不足の見えにくいリスクを解説します。
自覚症状のない「睡眠負債」がキャリアを蝕む
睡眠負債とは、慢性的な睡眠不足が累積した状態を指します。海外の睡眠研究では、6時間睡眠を2週間続けた被験者の認知機能が、2日間徹夜した状態と同等まで低下することが示されています。
問題は、本人に自覚がないことです。「調子は悪くない」「普通に仕事をこなせている」と感じていても、客観的なパフォーマンスは落ちている可能性があります。周囲からは「最近ミスが多い」「切れ味が鈍った」と評価されていても、自分では気づかない――これが睡眠負債の怖さです。
長期的には、昇進の機会を逃す、プロジェクトから外される、信頼を失うといった形でキャリアに影響が及ぶこともあります。睡眠負債は、目に見えないまま確実に仕事の質を下げている恐れがあります。
遺伝的な「ショートスリーパー」は人口のわずか1%未満
短時間睡眠でも健康を保てる真のショートスリーパーは、遺伝的に決定された極めて稀な存在です。研究によれば、特定の遺伝子変異を持つ人はわずか1%未満とされています。
「自分は短時間睡眠でも大丈夫」と感じている大半の人は、単に疲労の蓄積に慣れただけであり、遺伝的なショートスリーパーではない可能性のほうが高いと言えます。自覚のないまま睡眠不足を続けている状態です。
本物のショートスリーパーと自称ショートスリーパーを区別する基準は明確です。前者は日中の眠気や疲労感がまったくなく、認知機能も健康状態も正常とされています。一方、後者は「眠気はないが疲れは感じる」「休日に寝だめをする」といった兆候が見られます。自分が後者に該当するなら、睡眠時間の見直しが必要かもしれません。
徹夜明けの仕事効率は、通常時の何%まで落ちるのか?
徹夜明けの状態は、血中アルコール濃度0.05~0.1%に相当する認知機能の低下をもたらすという研究結果があります。これは、法律で飲酒運転とみなされる基準に近い水準です。
海外の研究では、17時間以上の覚醒状態が続いた場合、反応速度や判断精度が約30~40%低下することが確認されています。つまり、徹夜明けの仕事効率は、通常時の6~7割程度にまで落ち込む可能性があるということです。
にもかかわらず、「徹夜で仕上げた」という達成感だけが残り、成果物の質が落ちていることに気づかないケースは多く見られます。納期に間に合わせるための徹夜が、結果的に修正作業を増やし、さらに時間を奪う――この悪循環に陥っている場合、根本的な働き方の見直しが求められるでしょう。
仕事のQOLを下げる短時間睡眠による長期的リスク
短時間睡眠は、目の前の仕事だけでなく、長期的な健康やキャリアの持続可能性にも影響を及ぼす恐れがあります。以下では、慢性的な睡眠不足がもたらす3つのリスクを解説します。
生活習慣病(高血圧・糖尿病)の発症リスク増大
睡眠不足は、自律神経のバランスを崩し、交感神経を過剰に刺激することが知られています。この状態が続くと、血圧の上昇や血糖値の調整機能の低下を招く可能性があります。
疫学研究では、短時間睡眠が高血圧や2型糖尿病のリスク上昇と関連することが報告されています。さらに、睡眠不足は食欲を調整するホルモン(レプチンとグレリン)のバランスを乱し、過食傾向を強めることも指摘されています。
仕事のパフォーマンスを維持するために睡眠を削った結果、数年後には生活習慣病で仕事そのものを続けられなくなる――こうした事態は、決して珍しくありません。短期的な成果と長期的な健康を天秤にかけたとき、失うものの大きさを認識する必要があります。健康面で気になることがあれば、医師に相談することをおすすめします。
メンタルヘルスへの悪影響
睡眠不足は、うつ病や不安障害の発症リスクを高める可能性があります。研究では、短時間睡眠が抑うつ症状のリスク上昇と関連することが示されています。
睡眠中には、脳内の老廃物が除去され、感情を処理する神経回路が整理されるとされています。この過程が不十分だと、ネガティブな感情が蓄積し、ストレスへの耐性が低下する恐れがあります。小さな失敗を引きずる、将来への不安が消えない、些細なことで自己否定が強まるといった兆候は、メンタルヘルスの黄色信号かもしれません。
仕事のプレッシャーに耐えるために睡眠を削ることが、かえってメンタルの不調を招き、休職や離職につながるケースは少なくありません。睡眠は、精神的な回復力の土台といえます。メンタル面で不調を感じたら、早めに専門家に相談することが大切です。
見た目への影響
睡眠不足は、外見にも影響を及ぼす可能性があります。成長ホルモンは睡眠中に分泌され、皮膚や筋肉の修復を促すとされています。この分泌が不足すると、肌の再生が遅れ、老化の進行が早まる恐れがあります。
目の下のクマ、肌のくすみ、表情の疲れなど。こうした変化は、本人が気づかなくても周囲には伝わります。ビジネスの場では、見た目の印象が信頼や評価に影響することもあります。疲れた顔で商談に臨めば、相手に不安を与えるかもしれません。
また、睡眠不足はコルチゾール(ストレスホルモン)の分泌を増やし、体脂肪の蓄積を促す可能性が指摘されています。体型の変化や姿勢の悪化も、長期的には自己評価や自信に影響するでしょう。見た目の変化は、仕事への意欲や対人関係にも波及することがあります。
多忙なビジネスマンが仕事への影響を最小限にするための睡眠習慣
忙しい日々の中でも、睡眠の質を高める工夫はできます。以下では、時間の制約がある中で実践できる4つの習慣を紹介します。
睡眠の「質」に投資する
睡眠時間を確保できない場合でも、質を高めることで脳の回復効果を引き上げることが期待できます。質の良い睡眠には、深い眠り(ノンレム睡眠)の割合を増やすことが重要とされています。
寝具の見直しは、有効な方法のひとつです。体圧分散性の高いマットレスや、適切な高さの枕を選ぶことで、睡眠中の身体への負担が軽減される可能性があります。寝返りがスムーズに打てる環境は、深い睡眠の持続につながるとされています。

また、寝室の温度と湿度も質に影響します。一般的には室温16~19℃、湿度50~60%が快適とされています。エアコンや加湿器を活用し、快適な環境を整えることで、入眠の速度や睡眠の深さが改善されることがあります。質への投資は、短時間でも効率的に疲労を回復させる土台を作ります。

深部体温をコントロールする
人間の身体は、深部体温が下がることで眠気を感じる仕組みになっています。この仕組みを利用すれば、入眠をスムーズにできる可能性があります。
就寝の1~2時間前に入浴し、深部体温を一時的に上げます。その後、体温が自然に下がるタイミングで布団に入ると、入眠までの時間が短縮されることがあります。湯温は38~40℃程度が適切とされています。熱すぎる風呂は交感神経を刺激し、逆効果になる恐れがあります。
入浴が難しい場合は、足湯でも同様の効果が期待できます。洗面器に40℃程度のお湯を張り、10~15分間足を温めるだけで、深部体温の調整が促されます。深部体温のコントロールは、限られた時間でも睡眠の質を高める実用的な手段です。
デジタルデトックスのルーティンをつくる
スマートフォンやパソコンの画面から発せられるブルーライトは、メラトニン(睡眠ホルモン)の分泌を抑制することが知られています。就寝前のスクリーン使用は、入眠を遅らせ、睡眠の質を低下させる可能性があります。
就寝の1時間前には、デジタル機器の使用を止めるルーティンを設けることが推奨されています。代わりに、紙の本を読む、軽いストレッチをする、瞑想や深呼吸を行うといった活動に切り替えます。こうした習慣は、脳を覚醒状態から休息モードへと移行させる助けになります。

どうしても仕事のメールを確認する必要がある場合は、ブルーライトカット機能を活用するか、画面の輝度を最低限に下げることが望ましいでしょう。デジタルデトックスは、睡眠の質を守るための有効な手段です。
パワーナップを取り入れる
昼間の短時間仮眠(パワーナップ)は、午後のパフォーマンスを回復させる有効な手段とされています。研究では、短時間の仮眠が認知機能を向上させることが確認されています。
詳しくは下記記事をご覧ください。

持続可能な働き方を実現するためのコンディション管理術
長期的に高いパフォーマンスを維持するには、睡眠を含めた総合的なコンディション管理が欠かせません。以下では、仕事と健康を両立させる3つの視点を提案します。
睡眠を「仕事の一部(投資)」と捉える
睡眠は単なる休息ではなく、翌日のパフォーマンスを左右する投資といえます。睡眠時間を削って仕事を進めることは、短期的には時間を稼げても、長期的には成果の質を下げる可能性があります。
プロのアスリートが試合前に睡眠を最優先するように、ビジネスパーソンも重要な商談やプレゼンの前には睡眠を確保すべきでしょう。睡眠不足のまま重要な判断を下せば、取り返しのつかないミスにつながることもあります。
スケジュールを組む際には、「やるべきこと」だけでなく「回復のための時間」も計画に含めることが大切です。睡眠を後回しにする働き方は、持続可能ではありません。睡眠を仕事の一部として位置づけることで、長期的なキャリアの質も変わっていくでしょう。
最も頭を使う仕事は起床後4時間以内にする
脳の活動リズムには、起床後4時間以内にピークを迎えるという特性があるとされています。この時間帯は、論理的思考や創造的な発想が最も働きやすい状態です。
重要な企画書の作成、複雑な問題の解決、戦略的な判断といった高度な思考を要する仕事は、午前中に集中させることが推奨されます。逆に、定型的な事務作業やメールの返信は、午後に回すことで、脳の効率を最大限に活用できる可能性があります。
朝の時間を確保するためには、前夜の準備が重要です。翌日のタスクを整理し、必要な資料を揃えておくことで、朝から最高の状態で仕事に取りかかれます。脳のリズムを理解し、仕事の配置を最適化することで、同じ時間でも成果の質が変わることがあります。
まとめ
短時間睡眠は、集中力、判断力、論理的思考、感情コントロール、モチベーションといった仕事に直結する能力を低下させる可能性があります。自覚のない睡眠負債が蓄積すれば、キャリアの質そのものが損なわれることもあります。遺伝的なショートスリーパーは人口の1%未満であり、大半の人は睡眠不足の影響を受けています。
長期的には、生活習慣病やメンタルヘルスの問題、見た目の変化といったリスクも高まる恐れがあります。しかし、睡眠の質を高める工夫や、深部体温のコントロール、デジタルデトックス、パワーナップの活用によって、限られた時間でも回復効果を引き上げることは十分に可能です。
睡眠を仕事の一部として捉え、脳のリズムに合わせた働き方を設計することで、持続可能なパフォーマンスが実現します。短期的な成果と長期的な健康、どちらも諦めない働き方を選択しましょう。健康面で不安を感じる場合は、専門家への相談をおすすめします。
出典・参考文献
厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針2014」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf
Van Dongen HP, et al. “The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation.” Sleep. 2003;26(2):117-126.
He Y, et al. “The transcriptional repressor DEC2 regulates sleep length in mammals.” Science. 2009;325(5942):866-870.
Williamson AM, Feyer AM. “Moderate sleep deprivation produces impairments in cognitive and motor performance equivalent to legally prescribed levels of alcohol intoxication.” Occup Environ Med. 2000;57(10):649-655.
Cappuccio FP, et al. “Meta-analysis of short sleep duration and obesity in children and adults.” Sleep. 2008;31(5):619-626.
Baglioni C, et al. “Insomnia as a predictor of depression: a meta-analytic evaluation of longitudinal epidemiological studies.” J Affect Disord. 2011;135(1-3):10-19.
Brooks A, Lack L. “A brief afternoon nap following nocturnal sleep restriction: which nap duration is most recuperative?” Sleep. 2006;29(6):831-840.

