夜勤明けに眠っても疲れが取れない、昼間の睡眠が浅い——それは睡眠の質が低下しているサインかもしれません。体内時計の乱れ、日中の光と音、脳の覚醒状態の持続が原因ですが、帰宅後のルーティンや夜勤中の行動を変えることで改善できる可能性があります。
サングラス着用、適切な入浴時間、遮光と遮音の徹底、仮眠とカフェインの管理、低GI食品の選択、そして日常習慣の調整——これらを実践することで、夜勤をしながらも質の高い睡眠を取り戻せるかもしれません。
この記事のまとめ
・夜勤明けの睡眠の質が低下する主な原因は、体内時計の乱れ、帰宅時の太陽光による覚醒、夜勤中の緊張状態の持続の3つ
・帰宅後はサングラス着用で光を遮断し、1〜1.5時間後に38〜40℃の入浴、遮光カーテン・耳栓・アイマスクで「夜」の環境を再現することで睡眠の質を高められる
・夜勤中は15〜20分の仮眠、就寝6時間前のカフェイン摂取停止、低GI食品の選択が、帰宅後の深い睡眠につながる
夜勤明けの「睡眠の質」が低下する理由
夜勤後に横になっても深く眠れない、昼間に寝ても疲れが取れない——そう感じているなら、それは睡眠の質が低下している証拠かもしれません。この質の低下には、人間の生物学的な仕組みと環境的な要因が深く関わっています。
人間の体内に備わる「サーカディアンリズム」の乱れ
私たちの体には、約24時間周期で変動する体内時計が存在します。これを「サーカディアンリズム」と呼び、睡眠と覚醒、体温、ホルモン分泌などを制御しています(※1)。夜勤では、このリズムが要求する「夜に眠る」という自然な流れに逆らうことになります。
体温は通常、夜間に低下して眠りを深めますが、夜勤中は活動によって体温が上昇します。明け方の帰宅時には、体が「これから活動する時間」と認識してしまうため、深部体温が下がりにくくなるのです。メラトニン(睡眠ホルモン)の分泌も日中は抑制されるため、昼間に寝ようとしても脳が休息モードに入りにくくなります。
厚生労働省の資料によれば、交代制勤務は睡眠障害のリスク要因として認識されており、多くの夜勤従事者が睡眠に関する課題を抱えていることが示されています(※2)。これは単なる慣れの問題ではなく、生物学的な不一致が根本にあると考えられています。
太陽光と交感神経が深い眠りを妨げるメカニズム
夜勤明けの帰宅時、朝日を浴びることで体内時計はさらに混乱します。太陽光は強力な覚醒シグナルとして機能し、網膜から入った光情報が脳の視交叉上核(体内時計の中枢)に届くと、メラトニンの分泌が抑制されます(※3)。
同時に、交感神経が優位になります。退勤時の刺激や明るい環境は、心拍数を上げ、血圧を高め、脳を覚醒させる方向に働くのです。本来なら副交感神経が優位になるべき睡眠前の時間帯に、体は活動モードのままになってしまいます。
この状態で布団に入っても、深い睡眠の最初の段階である「ノンレム睡眠」に到達しにくくなる可能性があります。結果として、浅い眠りを繰り返すことになり、起床後も「寝た気がしない」という感覚が残りやすくなります。
頭が活動モードのままだから
夜勤中は判断や対応を求められる場面が多く、脳は緊張状態を維持します。この緊張は帰宅後も簡単には解けません。ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が続き、思考が止まらない状態が続くことがあります。
特に医療職や製造業など、夜間でも高い集中力を要する仕事では、交感神経の興奮が長引きやすい傾向があります。帰宅後すぐに眠ろうとしても、頭の中で業務の振り返りや次のシフトへの不安が巡り、入眠までに時間がかかる場合があるのです。
この状態は覚醒系の脳内物質の分泌とも関連しており、意識的にクールダウンする時間を設けることが、睡眠の質改善につながると考えられています。
【即実践】夜勤でも深く眠り、睡眠の質を高める帰宅後のルーティン
夜勤明けの睡眠の質を改善するには、帰宅後の過ごし方が重要です。体内時計をリセットせず、覚醒状態を穏やかに鎮めるための具体的な方法を紹介します。
帰宅時のサングラス着用
帰宅時の朝日を遮ることは、睡眠の質を守る簡単で効果的な手段の一つです。目から入る光が体内時計に「朝だ」と伝える前に、サングラスで光の刺激を減らします。
選ぶべきは、紫外線カット率だけでなく可視光線透過率の低いものです。できれば色の濃い茶色やグレー系で、視界を暗くするタイプが適しています。UVカット機能があっても、レンズが薄いと可視光線は通してしまうため、睡眠への効果は限定的になる可能性があります。
駅や車内など屋内でも外さずに着用し続けることで、メラトニンの分泌低下を抑える効果が期待できます。周囲の目が気になる場合は、「目の疲れ対策」として自然に取り入れることができるでしょう。
帰宅直後の入浴は逆効果?理想のタイミングと温度
「疲れたからすぐに熱い風呂に入りたい」という衝動は、実は睡眠の質を下げる要因になることがあります。入浴によって深部体温が上昇すると、体が覚醒モードに戻ってしまうためです。
理想は帰宅後1〜1.5時間程度空けてから、38〜40℃のぬるめの湯に10〜15分浸かることです(※4)。この温度なら交感神経を刺激しにくく、副交感神経を優位にして体をリラックスモードに導く効果が期待できます。入浴後、体温が緩やかに下がる過程で自然な眠気が訪れやすくなります。
どうしてもすぐに汗を流したい場合は、シャワーを短時間で済ませ、水温も熱くしすぎないことが大切です。入浴後は部屋の照明を落とし、スマホの画面も見ないようにして、脳への刺激を最小限に抑えましょう。
遮光カーテンと耳栓、アイマスクで完全な夜を擬似的に作る
昼間の睡眠環境は、いかに「夜」を再現できるかで質が変わってきます。遮光カーテンは遮光率99%以上の1級遮光タイプを選び、窓枠からの光漏れも防ぐため、カーテンレールより広めに設置するのが効果的です。

耳栓は外部の生活音を遮断し、睡眠中の中途覚醒を減らす助けになります。特に日中は車の音や話し声など、夜間にはない音刺激が多いため、耳栓の効果は大きいでしょう。遮音性能を示すNRR(ノイズリダクションレーティング)値(※5)が30以上のものを選ぶと、十分な静けさを確保できます。
アイマスクは、遮光カーテンでも防ぎきれない微細な光を遮ります。目の周囲に圧迫感がなく、立体構造で瞼に触れないタイプを選ぶと、長時間の使用でも快適です。この3つを組み合わせることで、体が「今は夜だ」と認識しやすくなり、深い睡眠に入りやすくなる可能性があります。
寝酒は厳禁
「眠りを助けるために」とアルコールを摂取する習慣は、睡眠の質を低下させる恐れがあります。確かにアルコールには入眠を早める効果がありますが、体内でアルコールが分解される過程で交感神経が刺激され、睡眠の後半が浅くなることが知られています(※6)。
特に夜勤明けの場合、体内時計が乱れている状態でアルコールを摂取すると、肝臓への負担が増し、睡眠中の覚醒回数が増える可能性があります。レム睡眠(記憶の整理や精神的な回復に重要な睡眠段階)も阻害されやすく、起床後の疲労感が残りやすくなります。
どうしてもリラックスしたい場合は、カモミールティーやホットミルクなど、カフェインを含まない温かい飲み物を選ぶとよいでしょう。アルコールに頼らずとも、入浴や暗い環境づくりで十分にリラックス効果を得られる場合があります。

夜勤中の過ごし方で決まる!睡眠の質を下げないための仮眠とカフェイン
夜勤明けの睡眠の質は、実は夜勤中の行動によって大きく左右されます。仮眠のタイミング、カフェインの摂取時刻、食事の内容——これらを意識的にコントロールすることで、帰宅後の睡眠をより深いものにできる可能性があります。
15〜20分の仮眠をとる(パワーナップ)
夜勤中の仮眠は、長すぎると逆効果になることがあります。理想は15〜20分の短時間仮眠「パワーナップ」です。この時間なら深い睡眠段階に入る前に目覚めることができ、起床後の眠気やだるさを避けられます。
椅子に座ったまま、または机に伏せる姿勢で仮眠をとると、深く眠り込みにくく、目覚めやすくなります。横になると深い睡眠に入りやすいため、短時間仮眠には向かない場合があります。詳しくは下記記事をご覧ください。

カフェインは寝る時間から逆算して摂取する
カフェインの覚醒効果は摂取後30分ほどで現れ、半減期は平均して約4〜6時間とされています(※7)。ただし個人差が大きく、体質によっては8時間以上残る場合もあるため注意が必要です。帰宅後に眠る予定時刻の6時間前には、カフェイン摂取を控えることが推奨されます。
たとえば午前9時に就寝するなら、午前3時以降のコーヒーやエナジードリンクは避けたほうがよいでしょう。夜勤の後半に眠気が強まる場合は、仮眠を活用するか、カフェインレスの飲料で水分補給を行います。
カフェインは緑茶やコーラ、チョコレートにも含まれているため、「コーヒーを飲んでいないから大丈夫」と油断しないことが重要です。成分表示を確認し、カフェイン含有量を把握しておくと、無意識の摂取を防げます。
夜食は低GI食品にする
夜勤中の食事は、血糖値の急上昇を避けることが睡眠の質維持につながる可能性があります。高GI食品(白米、菓子パン、砂糖入りの飲料など)は血糖値を急激に上げ、その後の急降下が眠気や集中力の低下を招くことがあります(※8)。
低GI食品の例
- 玄米おにぎり
- 全粒粉のパン
- ナッツ類
- ヨーグルト
- 野菜スティック など
また、消化に時間がかかる脂質の多い食事は、帰宅後の睡眠中に胃腸の活動が続くため、深い眠りを妨げる恐れがあります。夜勤の後半に食べる場合は、消化しやすく軽めの食事を選ぶことで、体への負担を減らせるでしょう。
夜勤者が睡眠の質を維持するための3つの習慣
夜勤を続けながら睡眠の質を保つには、単発の対策だけでなく、日常に組み込める習慣が必要です。ここで紹介する3つの習慣は、体内時計の乱れを最小限に抑え、長期的な健康維持につながる可能性があります。
休日も生活リズムを崩しすぎない
「休日は普通の生活に戻したい」という気持ちは自然ですが、睡眠リズムを大きく変えると、体内時計がさらに混乱する恐れがあります。夜勤明けの休日に夜型生活を続けるか、昼型に戻すかは、次の夜勤までの日数で判断するとよいでしょう。
夜勤が2〜3日続く場合は、休日も夜勤時と同じ睡眠時間帯を維持する方が、体への負担は少なくなる傾向があります。逆に、休日が複数日あり、次の夜勤まで間がある場合は、少しずつ睡眠時間をずらして昼型に近づけます。急激な変更は避け、1日1時間程度のずらし方に留めるのが無難です。
完全に昼型に戻せない場合でも、起床時刻だけは一定にすることで、体内時計の乱れを最小限に抑えられます。就寝時刻がずれても、起きる時刻を固定することで、リズムの基準点を作れるのです。
起床後に日光を浴びる
夜勤明けの睡眠から目覚めた後は、できるだけ早く日光を浴びることで、体内時計をリセットできる可能性があります。15〜30分程度、屋外で自然光に当たることで、メラトニンの分泌リズムが正常化しやすくなり、次の睡眠への準備が始まります(※9)。
曇りの日でも、室内照明の何倍もの明るさがあるため、屋外に出る効果は大きいです。ベランダや窓際で日光を浴びるだけでも十分でしょう。この習慣により、体は「今が活動時間」と認識し、次の睡眠に向けた覚醒と休息のメリハリがつきやすくなります。
夕方に目覚める場合でも、残った日光を浴びることで同様の効果が期待できます。日没後であっても、明るい場所で活動することで、体内時計の調整は可能とされています。
寝る前のマインドフルネス習慣
夜勤の緊張や不安を引きずったまま眠ると、入眠までの時間が長くなり、睡眠の質も低下する恐れがあります。寝る前の5〜10分、マインドフルネスや深呼吸を行うことで、交感神経の興奮を鎮め、副交感神経を優位にできる可能性があります。
具体的には、仰向けになり、ゆっくりと鼻から息を吸い、口から吐く腹式呼吸を繰り返します。呼吸に意識を向け、思考が浮かんでも追いかけず、再び呼吸に戻すのです。この単純な行為が、脳をリラックス状態に導く助けになるとされています。
スマートフォンのアプリや音声ガイドを使う方法もありますが、画面の光が刺激になるため、音声のみのガイドを選ぶか、何も使わずに呼吸だけに集中する方が効果的でしょう。習慣化することで、入眠までの時間が短くなり、深い睡眠に入りやすくなる可能性があります。
まとめ:睡眠の質をあげて、夜勤とQOLを両立させよう
夜勤による睡眠の質の低下は、体内時計の乱れ、日中の光と音の刺激、脳の覚醒状態の持続が主な原因です。しかし、帰宅後のルーティン、夜勤中の行動、日常習慣を整えることで、この影響を軽減できる可能性があります。
サングラスでの帰宅、適切な温度と時間での入浴、遮光と遮音の徹底、そして寝酒を避けること。夜勤中は15〜20分の仮眠、カフェインの摂取時刻の管理、低GI食品の選択。さらに、休日の生活リズムの調整、起床後の日光浴、寝る前のマインドフルネスを習慣にすることで、睡眠の質は改善する可能性があります。
夜勤は避けられない現実ですが、睡眠の質を守る方法は存在します。今日から一つでも実践し、体が求める休息を取り戻していきましょう。睡眠に関して深刻な悩みがある場合は、医療機関や産業医への相談も検討してください。
出典・参考文献
※1 厚生労働省 e-ヘルスネット「体内時計」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-039.html
※2 厚生労働省「交代制勤務に関する睡眠指針」
https://www.mhlw.go.jp/
※3 国立精神・神経医療研究センター「光と体内時計」
https://www.ncnp.go.jp/
※4 厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-004.html
※5 NRR(Noise Reduction Rating):アメリカ環境保護庁が定めた遮音性能の指標。数値が高いほど遮音効果が高いことを示します。
※6 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールと睡眠障害」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-08-001.html
※7 厚生労働省 e-ヘルスネット「カフェインの過剰摂取」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-03-001.html
※8 厚生労働省「食事バランスガイド」
https://www.mhlw.go.jp/
※9 厚生労働省 e-ヘルスネット「体内時計の調整」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/

